疾患の概要
腱板断裂は、肩関節を安定させ、腕を動かす役割を担う腱板(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの筋肉の腱の総称)が、外傷や加齢による変性により損傷・断裂する疾患です。病態生理としては、腱板の微細な損傷が繰り返されたり、一度の強い外力によって腱組織が断裂したりします。加齢に伴う腱の脆弱化が主な原因の一つであり、50歳以上に多く見られます。また、転倒による肩の強打や、スポーツ活動(野球、テニスなど)でのオーバーユースも原因となります。主な症状は、肩の痛み(特に腕を上げる動作時や夜間)、可動域制限(特に挙上や外旋)、筋力低下、そして断裂部に一致する圧痛です。完全断裂の場合は、腕を自力で上げられなくなる「インピンジメント徴候」や「ドロップアームサイン」が見られることもあります。検査としては、問診、身体診察(可動域測定、筋力評価、特殊テスト)、X線検査(骨棘形成や肩峰の形状評価)、MRI検査(腱板の断裂部位、程度、大きさの評価に最も有用)、超音波検査(リアルタイムでの腱の評価)が行われます。治療は、保存療法と手術療法に大別されます。保存療法では、安静、鎮痛剤の内服、物理療法、ステロイド注射、リハビリテーション(可動域訓練、筋力強化)が行われます。保存療法で改善が見られない場合や、若年者、活動性の高い患者、完全断裂で機能障害が著しい場合には、断裂した腱を縫合する手術療法(関節鏡視下手術が一般的)が検討されます。
看護のポイント
腱板断裂の看護では、患者さんの痛みの緩和と機能回復の支援が重要です。観察項目としては、痛みの部位、性質、程度(VAS/NRS)、増悪・緩和因子、夜間痛の有無を詳細に把握します。また、肩関節の可動域(自動・他動)、筋力、腫脹、熱感、皮膚の状態(発赤、創部)、神経症状(しびれ、麻痺)の有無を評価します。ADL(着替え、洗髪、食事、排泄など)への影響も確認し、日常生活での困難さを把握します。ケアの実際では、急性期には安静を保ち、患肢の挙上や冷却(医師の指示による)を行い、炎症と痛みを軽減します。鎮痛剤の適切な使用を促し、効果と副作用を観察します。手術後の患者さんには、術後早期からのリハビリテーションへの積極的な参加を促し、疼痛管理と並行して、指示された可動域訓練や筋力強化訓練を安全に行えるよう支援します。体位変換時には患肢に負担がかからないよう介助し、安静保持のためのシーネや装具の正しい装着方法を確認します。患者教育では、疾患の病態、治療の目的、保存療法や手術療法の選択肢とその効果、リハビリテーションの重要性を分かりやすく説明します。痛みの管理方法、日常生活での注意点(患肢への負担軽減、適切な姿勢)、装具の正しい使用方法、合併症の兆候(感染、神経損傷)について指導します。退院後の生活を見据え、自宅でのリハビリテーションの継続や、再断裂予防のための生活習慣の改善についても助言します。
アセスメントのポイント
フィジカルアセスメントでは、まず視診で肩関節の変形、腫脹、発赤、筋萎縮の有無を確認します。触診では、腱板の走行に沿った圧痛の有無、肩峰下包の腫脹、熱感を評価します。肩関節の自動運動と他動運動の両方で可動域を測定し、制限の程度と痛みの誘発を確認します。特に、挙上、外旋、内旋の動きに注目します。筋力評価では、徒手筋力テスト(MMT)を用いて、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の筋力を個別に評価します。腱板断裂に特有の特殊テストとして、ドロップアームサイン(腕をゆっくり下ろす際に途中でガクッと落ちる)、インピンジメント徴候(腕を上げる際に痛みが生じる)、外旋筋力低下などを確認します。神経学的アセスメントとして、上肢の感覚異常や筋力低下の有無を評価し、神経損傷の合併の可能性を除外します。検査データでは、X線画像で骨棘形成や肩峰の形状異常、関節の変性所見を確認します。MRI画像では、腱板の断裂部位、断裂の程度(部分断裂か完全断裂か)、断裂の大きさ、筋の萎縮の程度、脂肪変性の有無を詳細に確認し、治療方針の決定に役立てます。超音波検査では、腱板の動的な評価や断裂の有無、関節液貯留の有無をリアルタイムで確認します。
関連する看護診断
1. 慢性疼痛: 腱板断裂による炎症と組織損傷に関連した肩の痛み。 2. 身体可動性障害: 疼痛、筋力低下、関節可動域制限に関連した肩関節の運動機能の低下。 3. セルフケア不足(入浴、着衣、食事など): 疼痛と肩関節の機能制限に関連したADL遂行能力の低下。 4. 知識不足: 疾患の病態、治療、リハビリテーション、セルフケアに関する情報不足。 5. 睡眠パターン妨害: 夜間痛に関連した睡眠の質の低下。
看護計画の要約
【OP(観察計画)】疼痛の部位、性質、程度(VAS/NRS)、増悪・緩和因子、夜間痛の有無を継続的に観察する。肩関節の可動域(自動・他動)、筋力、腫脹、熱感、皮膚の状態、神経症状の有無を評価する。ADL(着替え、洗髪、食事など)への影響と自立度を把握する。鎮痛剤の効果と副作用、リハビリテーションの実施状況と効果、合併症(感染、神経損傷など)の兆候を観察する。患者の不安やストレスの程度を把握する。【TP(援助計画)】医師の指示に基づき、鎮痛剤を適切に投与し、疼痛緩和を図る。患肢の安静保持、冷却、挙上などを行い、炎症と痛みを軽減する。リハビリテーションプログラムへの積極的な参加を促し、安全な可動域訓練や筋力強化訓練を支援する。体位変換時やADL介助時には、患肢に負担がかからないよう配慮する。安静保持のためのシーネや装具の正しい装着方法を確認し、必要に応じて装着を介助する。患者の訴えを傾聴し、精神的なサポートを提供する。【EP(教育計画)】疾患の病態、治療の目的、保存療法や手術療法の選択肢とその効果、リハビリテーションの重要性について分かりやすく説明する。痛みの管理方法(薬剤の使用、冷却、安静など)、日常生活での注意点(患肢への負担軽減、適切な姿勢)、装具の正しい使用方法を指導する。退院後の自宅でのリハビリテーションの継続方法、再断裂予防のための生活習慣の改善について助言する。合併症の兆候(感染、神経損傷)とその際の対処法について説明し、早期受診を促す。