疾患の概要
前立腺がんは、男性の生殖器である前立腺に発生する悪性腫瘍です。前立腺は膀胱の下に位置し、尿道を取り囲んでいます。病態生理としては、前立腺の腺細胞が異常増殖することで発生します。多くは腺癌であり、初期には自覚症状が乏しいのが特徴です。主な原因は不明ですが、加齢、遺伝的要因(家族歴)、人種(アフリカ系アメリカ人に多い)、食生活(高脂肪食)などがリスク因子とされています。初期には無症状であることが多く、進行すると排尿困難、頻尿、残尿感、血尿などの排尿症状が現れます。骨に転移しやすい特徴があり、腰痛や骨痛で発見されることもあります。検査としては、PSA(前立腺特異抗原)検査がスクリーニングに用いられ、異常値の場合は直腸診、経直腸的前立腺超音波検査、前立腺生検が行われ確定診断されます。病期診断にはCT、MRI、骨シンチグラフィーなどが用いられます。治療法は病期や患者の年齢、全身状態によって異なり、監視療法(PSA監視)、手術療法(前立腺全摘除術)、放射線療法(外部照射、小線源治療)、ホルモン療法(内分泌療法)、化学療法などがあります。早期発見・早期治療が重要ですが、進行がんではQOL維持が治療の大きな目標となります。
看護のポイント
前立腺がん患者の看護では、身体的苦痛の緩和と精神的サポートが重要です。術前・術後の身体的ケア、特に排尿管理に重点を置きます。手術後は尿失禁のリスクが高まるため、骨盤底筋体操の指導やパッド交換、皮膚保護が不可欠です。放射線療法やホルモン療法では、それぞれの副作用(倦怠感、ホットフラッシュ、性機能障害など)に対する症状緩和ケアを行います。患者教育では、疾患の理解、治療の選択肢とそのメリット・デメリット、副作用への対処法、セルフケアの重要性を丁寧に説明します。特に性機能障害は患者のQOLに大きく影響するため、パートナーを含めた心理的サポートや相談窓口の紹介も考慮します。退院後の生活指導では、定期的な受診の必要性、生活習慣の改善、再発の兆候に関する情報提供を行います。患者が治療を継続し、前向きに生活できるよう、個別性を重視した支援が求められます。
アセスメントのポイント
フィジカルアセスメントでは、排尿状態(頻度、量、勢い、残尿感、血尿の有無)、疼痛の有無と部位(特に腰部や骨盤)、全身倦怠感、体重変化、浮腫の有無などを観察します。直腸診は医師が行いますが、その所見(前立腺の硬さ、しこりの有無)も重要です。術後は、創部の状態、ドレーン排液の性状と量、尿カテーテルの管理、尿失禁の程度を詳細に観察します。放射線療法中は、皮膚の状態(紅斑、乾燥、色素沈着)、排便状態(下痢の有無)、膀胱刺激症状を確認します。ホルモン療法中は、ホットフラッシュ、性欲減退、勃起機能障害、乳房の腫れや痛み、骨密度の低下による骨折リスクに注意します。検査データでは、PSA値の推移、肝機能、腎機能、電解質、貧血の有無(Hb値)、骨転移の評価のためのALP値などを確認します。PSA値は治療効果判定や再発の早期発見に非常に重要です。
関連する看護診断
1. 尿失禁のリスク状態:前立腺全摘除術後の尿道括約筋機能低下、神経損傷に関連して。
2. 身体イメージの混乱:性機能障害、尿失禁、治療による身体変化に関連して。
3. 疼痛:骨転移、手術創、放射線治療による炎症に関連して。
4. 不安:疾患の診断、治療の選択、予後、再発への懸念に関連して。
5. 知識不足:疾患の病態、治療法、副作用、セルフケアに関する情報不足に関連して。
看護計画の要約
OP(観察計画):排尿状態(頻度、量、勢い、残尿感、血尿)、疼痛の有無と程度、全身倦怠感、体重変化、皮膚の状態(特に放射線照射部位や尿失禁による皮膚炎)、性機能障害の有無と程度、精神状態(不安、抑うつ)、PSA値や他の血液検査データ、画像診断の結果を継続的に観察する。TP(治療計画):医師の指示に基づき、鎮痛剤の適切な使用、抗がん剤やホルモン剤の確実な投与と副作用のモニタリング、尿道カテーテルの管理、創部ケア、尿失禁に対するパッド交換や皮膚保護、骨盤底筋体操の指導、食事指導(高脂肪食の制限)、身体活動の維持を支援する。EP(教育計画):疾患の病態、治療の目的と方法、起こりうる副作用とその対処法、セルフケアの方法(排尿管理、皮膚保護、骨盤底筋体操)、性機能障害に関する情報と相談窓口、定期的な受診の重要性、再発の兆候について患者と家族に説明し、理解を促す。不安や疑問に寄り添い、精神的サポートを提供する。