疾患の概要
多臓器不全(Multiple Organ Dysfunction Syndrome: MODS)は、重症な病態(敗血症、重症外傷、広範囲熱傷、急性膵炎など)に起因する全身性の炎症反応症候群(SIRS)が制御不能となり、2つ以上の臓器系に機能障害が生じる症候群です。病態生理としては、SIRSによる全身性の炎症性サイトカインの過剰産生、血管内皮細胞の損傷、微小循環障害、凝固系の活性化などが複雑に絡み合い、臓器への酸素供給と栄養供給が阻害され、細胞レベルでの機能不全が引き起こされます。原因は多岐にわたりますが、最も多いのは敗血症です。その他、重症外傷、広範囲熱傷、急性膵炎、大量出血、心停止後症候群なども原因となります。主な症状は、障害される臓器によって異なりますが、呼吸器系では急性呼吸窮迫症候群(ARDS)による呼吸困難、循環器系では低血圧や不整脈、腎臓では急性腎障害による乏尿・無尿、肝臓では黄疸や凝固障害、中枢神経系では意識障害などが挙げられます。検査は、血液検査(炎症マーカー、肝機能、腎機能、凝固系、血液ガス)、尿検査、胸部X線、CT、超音波検査など、障害されている臓器機能に応じたものが実施されます。治療は、原疾患の治療に加え、臓器機能の支持療法が中心となります。人工呼吸管理、循環作動薬による血圧維持、持続的腎代替療法(CRRT)、輸血、栄養管理などが行われます。
看護のポイント
多臓器不全の看護では、全身状態の綿密な観察と早期発見、そして各臓器機能の維持が重要です。観察項目としては、バイタルサイン(特に血圧、心拍数、呼吸数、SpO2)、意識レベル、尿量、皮膚の色調・温度、浮腫の有無、出血傾向、呼吸パターン、人工呼吸器の設定とアラーム、点滴ラインの管理、ドレーン排液量・性状など多岐にわたります。ケアの実際としては、人工呼吸器管理下の患者では、口腔ケア、体位変換、吸引、鎮静管理が不可欠です。循環動態が不安定な場合は、輸液管理や昇圧剤の投与管理、末梢循環の評価を行います。腎機能障害がある場合は、厳密な水分出納バランスの管理やCRRTの補助を行います。肝機能障害では、出血傾向の観察と対応、高アンモニア血症に対するケアが必要です。感染予防のため、無菌操作の徹底、カテーテル関連感染の予防、早期離床を促します。栄養管理も重要であり、経腸栄養や静脈栄養の管理を行います。患者教育は、患者の状態が重篤であるため、主に家族に対して行われます。病状の説明、治療方針、予後に関する情報提供、精神的サポートが中心となります。
アセスメントのポイント
フィジカルアセスメントでは、まず意識レベルの評価(JCS, GCS)を行い、神経学的徴候を把握します。呼吸状態は、呼吸数、呼吸パターン、努力呼吸の有無、チアノーゼ、胸郭の動きを観察し、聴診で呼吸音を確認します。循環状態は、脈拍の触知、皮膚の冷感・湿潤、毛細血管再充満時間、浮腫の有無、心音の聴診、血圧測定で評価します。腹部は、膨満の有無、腸蠕動音、圧痛を確認します。皮膚は、発疹、出血斑、褥瘡のリスクを評価します。検査データでは、血液ガス分析で酸素化、換気、酸塩基平衡の状態を把握します。炎症マーカー(CRP, プロカルシトニン)で炎症の程度を評価し、白血球数、血小板数、PT-INR, APTTで凝固系を評価します。肝機能(AST, ALT, ALP, T-Bil)と腎機能(BUN, Cr)は臓器障害の指標となります。電解質、血糖値も頻繁に確認し、異常があれば補正します。尿量は時間尿を測定し、腎機能障害の早期発見に努めます。これらのデータを統合し、多臓器不全の進行度と治療効果を評価します。
関連する看護診断
1. ガス交換障害: 根拠-ARDSによる肺機能低下、人工呼吸器管理。 2. 心拍出量減少のリスク: 根拠-敗血症性ショック、循環作動薬の使用。 3. 体液量過剰のリスク: 根拠-急性腎障害、輸液過多。 4. 感染のリスク: 根拠-侵襲的処置(カテーテル留置)、免疫能低下。 5. 栄養摂取量不足: 根拠-代謝亢進、経口摂取不能。
看護計画の要約
OP: バイタルサイン(血圧、心拍数、呼吸数、SpO2)の時間ごとの測定と記録。意識レベル(JCS, GCS)の経時的評価。尿量、尿比重、尿性状の観察。血液ガス分析、肝機能、腎機能、電解質、炎症マーカー、凝固系データの結果確認。人工呼吸器の設定とアラーム、呼吸音の聴取。皮膚の色調、温かさ、湿潤、浮腫、出血傾向の観察。TP: 人工呼吸器管理下の患者では、気道確保、吸引、口腔ケア、体位変換を定時に実施。循環動態安定のため、医師の指示に基づき輸液管理、昇圧剤の投与管理。感染予防のため、カテーテル挿入部の清潔保持、無菌操作の徹底。栄養管理として、経腸栄養または静脈栄養の準備と投与管理。意識障害のある患者には、誤嚥予防のため体位調整や咽頭反射の確認。EP: 患者家族に対し、病状、治療内容、予後について医師と連携し分かりやすく説明。精神的苦痛の軽減のため、傾聴や声かけ、不安の表出を促す。治療の必要性や合併症のリスクについて説明し、理解を促す。家族が患者に面会する際の注意点(感染予防策など)を指導。