疾患の概要
てんかんは、脳の神経細胞が過剰に興奮することで引き起こされる発作を繰り返す慢性的な脳疾患です。病態生理としては、脳内の神経伝達物質のアンバランス(興奮性神経伝達物質の過剰や抑制性神経伝達物質の不足)や、神経細胞膜のイオンチャネルの異常などが関与していると考えられています。原因は多岐にわたり、特発性(原因不明)が最も多いですが、脳腫瘍、脳血管障害、頭部外傷、脳炎・髄膜炎、先天性脳奇形、遺伝的要因なども挙げられます。発作のタイプは多様で、全身が硬直してガクガクと痙攣する「全般てんかん」や、脳の一部に異常な興奮が起こる「部分てんかん」があります。部分てんかんは意識が保たれる「焦点性意識保持発作」と意識が障害される「焦点性意識変容発作」に分けられます。主な症状は、意識消失、全身の痙攣、脱力、感覚異常、精神症状(幻覚、錯覚)など、発作型によって異なります。診断は、詳細な問診(発作時の状況、既往歴)、脳波検査(てんかん性放電の有無)、頭部MRIやCT(脳の器質的病変の有無)を組み合わせて行われます。治療は主に抗てんかん薬による薬物療法が中心で、発作の抑制を目指します。薬物療法で効果が得られない難治性てんかんの場合には、外科的治療(焦点切除術、脳梁離断術など)や迷走神経刺激療法が検討されることもあります。
看護のポイント
てんかん患者の看護では、発作時の安全確保と発作予防が最重要です。発作時は、患者を安全な場所に移動させ、頭部保護(クッションなどを敷く)、衣類を緩める、呼吸の確保(側臥位にする)を行います。舌を噛まないように無理に物を口に入れることは危険です。発作時間、発作の様子(全身性か部分性か、左右差、意識レベル、呼吸状態など)、発作後の状態を詳細に観察し記録します。発作誘因(睡眠不足、疲労、ストレス、飲酒、光刺激、薬剤など)の特定と回避を指導し、規則正しい生活習慣の確立を支援します。抗てんかん薬は発作を抑制するために非常に重要であり、患者が自己判断で中断しないよう、服薬の重要性、副作用、服薬方法について正確に指導します。また、てんかんは社会的な偏見やスティグマに繋がりやすく、患者や家族の精神的サポートも不可欠です。病気への理解を深め、日常生活での注意点(車の運転制限、入浴時の注意など)を具体的に説明し、社会資源の活用(てんかん協会、支援団体など)を促します。発作が長期的に抑制されている場合でも、定期的な受診と服薬継続の必要性を強調します。
アセスメントのポイント
アセスメントでは、まず発作の既往歴、発作型、発作頻度、発作持続時間、発作誘因について詳細に聴取します。特に、発作時の状況を患者本人だけでなく、目撃者からも聴取することが重要です。現在の抗てんかん薬の種類、用量、服薬状況、副作用の有無も確認します。フィジカルアセスメントでは、意識レベル(JCS、GCS)、呼吸状態、循環状態、神経学的所見(瞳孔、対光反射、麻痺の有無、感覚異常など)を評価します。発作後には、意識レベルの回復状況、見当識障害の有無、頭痛、倦怠感、外傷の有無を注意深く観察します。検査データとしては、脳波検査の結果(てんかん性放電の有無、部位)、頭部画像検査(MRI、CT)の結果(脳腫瘍、脳出血、脳梗塞などの器質的病変の有無)、血液検査(抗てんかん薬の血中濃度、肝機能、腎機能、電解質バランスなど)を確認します。これらの情報から、発作のコントロール状況、薬剤の有効性や安全性、合併症の有無を総合的に判断します。また、患者の日常生活動作(ADL)、精神状態、社会生活への適応状況も評価し、個別性のある看護計画立案に繋げます。
関連する看護診断
1. 外傷のリスク: 発作による転倒や衝突により身体的損傷を負う可能性があるため。
2. 非効果的自己健康管理: 治療計画(服薬、生活習慣)の遵守が困難である可能性や、疾患への理解不足があるため。
3. 不安: 発作の再発への恐れ、社会生活への影響、病気に対するスティグマなどにより精神的苦痛を抱えているため。
4. 身体損傷のリスク: 発作時の不随意運動や意識障害により、周囲の環境や自身の身体を傷つける可能性があるため。
5. 知識不足: 疾患の病態、治療、発作時の対処法、日常生活での注意点について十分な理解がないため。
看護計画の要約
OP: 発作の頻度・持続時間・発作型・誘因の有無、発作時の状況(意識レベル、呼吸状態、身体損傷の有無)を観察する。抗てんかん薬の服薬状況・副作用の有無、血中濃度をモニタリングする。精神状態(不安、抑うつ)、ADL、社会生活への適応状況を評価する。TP: 発作時の安全確保(ベッド柵、頭部保護、側臥位)、外傷予防のための環境整備を行う。抗てんかん薬の正確な服薬管理と副作用モニタリングを行う。発作誘因の回避に関する指導を行う。不安軽減のための傾聴と精神的サポートを提供する。EP: 患者・家族に対し、てんかんの病態、発作時の対処法、抗てんかん薬の重要性・副作用、発作誘因の回避方法、日常生活での注意点(入浴、運転、飲酒など)について説明する。社会資源(てんかん協会、自助グループ)の活用を促す。定期的な受診の重要性を指導する。