疾患の概要
摂食障害は、食事や体重に対する異常なこだわりや行動を特徴とする精神疾患です。神経性やせ症(拒食症)と神経性過食症に大別されます。神経性やせ症は、体重増加への強い恐怖から極端な食事制限や過度な運動を行い、低体重に至る状態です。病態生理としては、脳内の神経伝達物質(セロトニン、ドーパミンなど)の異常、視床下部機能不全、内分泌系の乱れなどが関与すると考えられています。原因は単一ではなく、遺伝的要因、心理社会的要因(完璧主義、自尊心の低さ、ストレス、ボディイメージの歪み)、文化的要因(痩身志向)などが複雑に絡み合っています。主な症状は、極端な体重減少、無月経、低血圧、徐脈、電解質異常、骨粗鬆症、過活動、身体醜形恐怖などです。神経性過食症は、短期間に大量の食物を摂取する過食エピソードと、その後の体重増加を防ぐための不適切な代償行動(自己誘発性嘔吐、下剤乱用、過度な運動など)を繰り返す状態です。症状としては、歯のエナメル質の腐食、唾液腺の腫脹、電解質異常、食道炎、胃拡張などが見られます。検査は、身体診察、血液検査(電解質、肝機能、腎機能、血糖、ホルモンなど)、心電図、骨密度測定などが行われます。治療は、精神療法(認知行動療法、家族療法)、薬物療法(抗うつ薬など)、栄養療法、身体合併症の治療を組み合わせた集学的アプローチが基本となります。特に、生命の危険がある場合は、入院による栄養管理が必須です。
看護のポイント
摂食障害の看護では、まず患者との信頼関係構築が最も重要です。患者は自身の病態を認めないことが多いため、共感的態度で接し、安全で安心できる環境を提供します。観察項目としては、食事摂取量、体重、排泄状況(嘔吐の有無、下剤使用状況)、バイタルサイン(特に低血圧、徐脈)、電解質異常による症状(筋力低下、不整脈など)、身体合併症の有無(浮腫、皮膚乾燥、脱毛、歯の損傷など)、精神状態(抑うつ、不安、ボディイメージの歪み、自傷行為の有無)、活動量、睡眠状況など多岐にわたります。ケアの実際では、食事の管理(少量頻回食、栄養バランスの考慮、食事中の見守り)、体重測定(患者の同意を得て、一定条件で行う)、排泄管理(嘔吐や下剤乱用への介入)、身体合併症への対処、精神的サポート(傾聴、感情の表出の促進)、活動制限の検討などがあります。患者教育では、疾患の正しい知識、栄養の重要性、健康的な食行動、ストレス対処法、自己肯定感の向上、再発予防について段階的に行います。家族への支援も重要であり、疾患理解の促進、関わり方のアドバイス、サポートグループの紹介などを行います。
アセスメントのポイント
フィジカルアセスメントでは、まず全身状態の観察が重要です。身長・体重(BMIの算出)、バイタルサイン(血圧低下、徐脈、低体温の有無)、皮膚・毛髪の状態(乾燥、脱毛、発疹)、口腔内(歯のエナメル質侵食、唾液腺腫脹)、浮腫の有無、筋力低下、骨突出、末梢循環(チアノーゼ、冷感)などを確認します。神経性やせ症では低体重、神経性過食症では正常体重または過体重のことが多いですが、身体合併症は共通して起こり得ます。検査データでは、血液検査が特に重要です。電解質(K、Na、Cl、Ca、Mg、P)の異常は不整脈や意識障害に直結するため注意深くモニタリングします。肝機能(AST、ALT)、腎機能(BUN、Cr)、血糖値、血清アミラーゼ(過食嘔吐で上昇)、甲状腺機能、貧血の有無(Hb、Ht)なども確認します。ホルモン検査では、性ホルモン(無月経の評価)、コルチゾールなどを測定することがあります。心電図では、QT延長などの不整脈の有無を確認し、骨密度測定は骨粗鬆症の評価に必要です。これらのデータから、身体合併症の重症度を把握し、生命の危険性を評価します。
関連する看護診断
1. 栄養摂取量不足: 身体的必要量以下(根拠: 極端な食事制限、過度な運動、嘔吐、下剤乱用による栄養吸収障害) 2. ボディイメージの混乱(根拠: 痩せ願望、肥満への恐怖、自己評価の低さ、メディアの影響) 3. 不安(根拠: 食事や体重への強いこだわり、自己制御の困難、他者からの評価への恐怖) 4. 非効果的コーピング(根拠: ストレスや感情を食事行動で対処しようとする、問題解決能力の低下) 5. 体液量減少のリスク(根拠: 嘔吐、下剤乱用、不十分な水分摂取による電解質異常や脱水)
看護計画の要約
OP: 患者の食事摂取量、体重、バイタルサイン、電解質データ、身体合併症の有無と程度、精神状態(不安、抑うつ、ボディイメージの歪み)、嘔吐や下剤使用の有無、活動量、睡眠状況を継続的に観察する。TP: 患者との信頼関係を構築し、安心できる環境を提供する。医師の指示に基づき、栄養士と連携して段階的な栄養管理を行う(少量頻回食、食事中の見守り、体重測定の実施)。身体合併症に対する治療やケアを適切に行う。患者の感情表出を促し、傾聴する。ストレス対処法やコーピングスキルの獲得を支援する。自傷行為のリスクがある場合は、安全確保に努める。EP: 患者に対し、摂食障害に関する正しい知識、健康的な食行動の重要性、栄養のバランス、ストレスマネジメント、再発予防策について教育する。家族に対しては、疾患理解を促進し、患者への適切な関わり方やサポートグループの利用を促す。退院後の社会資源や継続的な治療の必要性について説明する。