疾患の概要
乳がんは、乳腺組織に発生する悪性腫瘍です。病態生理としては、乳腺の細胞が異常に増殖し、周囲組織を破壊しながら浸潤し、リンパ節や他臓器に転移する可能性があります。発生原因は多岐にわたり、遺伝的要因(BRCA1/2遺伝子変異など)、女性ホルモン(エストロゲン)への曝露期間が長いこと(早期初経、閉経遅延、出産歴なし、授乳歴なし、ホルモン補充療法など)、肥満、飲酒、喫煙、放射線被曝などが挙げられます。主な症状は、乳房のしこり(最も多い)、乳房の痛み、乳頭からの異常分泌(血性など)、乳房の皮膚の変化(ひきつれ、えくぼ、発赤、ただれ)、わきの下のしこりなどです。初期には自覚症状がほとんどないことも多く、定期的な検診が重要です。検査には、問診、視触診、マンモグラフィ(乳房X線検査)、超音波検査(エコー)、MRI検査、組織学的診断(針生検、吸引細胞診、外科的生検)などがあります。これらの検査でがんの有無や進行度を診断します。治療は、がんの進行度(ステージ)、サブタイプ(ホルモン受容体陽性、HER2陽性、トリプルネガティブなど)、患者の年齢や全身状態によって異なります。主な治療法は、手術(乳房温存手術、乳房切除術、センチネルリンパ節生検、腋窩リンパ節郭清)、放射線療法、薬物療法(化学療法、ホルモン療法、分子標的薬)、免疫療法などがあり、これらを単独または組み合わせて行われます。早期発見・早期治療が予後を大きく左右します。
看護のポイント
乳がん患者の看護では、身体的苦痛の緩和と精神的サポートが重要です。観察項目としては、術後の創部状態(出血、感染兆候、ドレーン排液量・性状)、疼痛の有無と程度、上肢のリンパ浮腫の有無と程度、全身状態(発熱、倦怠感、食欲不振など)、薬物療法の副作用(悪心、嘔吐、脱毛、骨髄抑制など)を注意深く観察します。また、患者の精神状態(不安、抑うつ、ボディイメージの変化への戸惑い)にも配慮し、傾聴と共感的な態度で接します。ケアの実際では、術後の疼痛管理、ドレーン管理、リンパ浮腫予防のための指導とケア(弾性ストッキングの着用、患肢挙上、適切な運動)、清潔ケア、食事摂取の援助などがあります。薬物療法中の副作用対策として、制吐剤の使用、口腔ケア、皮膚ケア、栄養指導なども行います。患者教育としては、疾患や治療法の理解促進、セルフケアの指導(創部ケア、リンパ浮腫予防体操、乳房再建に関する情報提供)、治療後の生活調整(社会復帰、食事、運動、禁煙・節酒)、定期的なフォローアップの重要性などを丁寧に説明し、患者が主体的に治療と向き合えるよう支援します。また、家族へのサポートも考慮し、情報提供や相談の機会を設けます。
アセスメントのポイント
フィジカルアセスメントでは、まず乳房の視診・触診を行い、しこりの有無、大きさ、硬さ、可動性、皮膚の変化(ひきつれ、えくぼ、発赤、潰瘍)、乳頭からの分泌物の有無と性状を確認します。腋窩リンパ節の腫脹の有無も確認します。術後であれば、創部の状態(発赤、腫脹、熱感、疼痛、排液の性状と量)、ドレーンの固定状況と機能を確認します。上肢の周径を測定し、リンパ浮腫の兆候がないか評価します。全身状態として、バイタルサイン(体温、脈拍、呼吸、血圧)の測定、皮膚・粘膜の状態(貧血、黄疸、乾燥)、浮腫の有無、活動性、睡眠状況、食欲、排泄状況などを総合的に評価します。検査データでは、血液検査(CBC、肝機能、腎機能、腫瘍マーカー:CEA, CA15-3など)、画像検査(マンモグラフィ、超音波、MRI、CT、骨シンチグラム、PET-CTなど)の結果を確認します。特に、腫瘍マーカーの変動は治療効果や再発の指標となるため重要です。病理組織学的検査の結果(がんの種類、悪性度、ホルモン受容体、HER2発現など)は治療方針決定に不可欠な情報であり、これを理解しておく必要があります。これらの情報から、患者の身体的・精神的状態、治療の進行状況、合併症の有無、生活への影響を包括的にアセスメントします。
関連する看護診断
1. 疼痛(急性または慢性):手術、放射線療法、化学療法、またはがんの進行に関連する。2. ボディイメージの混乱:乳房切除、脱毛、体重変化、または治療による身体的変化に関連する。3. 不安:診断、治療、予後、または再発への懸念に関連する。4. 感染のリスク:手術創、免疫抑制、またはリンパ浮腫に関連する。5. 疲労:疾患の進行、治療の副作用(化学療法、放射線療法)、または精神的ストレスに関連する。
看護計画の要約
OP: 疼痛の有無・程度・部位・性状、創部の状態(発赤、腫脹、排液)、リンパ浮腫の有無と程度、悪心・嘔吐・脱毛などの副作用、全身倦怠感、食事摂取量、排泄状況、精神状態(不安、抑うつ)、ボディイメージの変化への言動を観察する。TP: 疼痛コントロールのため、医師の指示に基づき鎮痛剤を適切に投与し、効果を評価する。術後早期から離床を促し、リンパ浮腫予防のための患肢挙上、弾性ストッキング着用、リンパドレナージ指導を行う。清潔ケア、食事摂取の援助、薬物療法の副作用に対する対症療法(制吐剤投与、口腔ケア、皮膚ケア)を実施する。患者の訴えを傾聴し、精神的サポートを提供する。EP: 疾患、治療(手術、放射線療法、薬物療法)、副作用に関する情報を提供する。セルフケア(創部ケア、リンパ浮腫予防体操、食事、運動)の指導を行う。治療後の生活調整(社会復帰、乳房再建、定期検診の重要性)について説明する。必要に応じて、がん相談支援センターやピアサポートグループの情報を提供する。