疾患の概要
前立腺肥大症は、男性の加齢に伴い前立腺が肥大する疾患です。前立腺は膀胱の出口に位置し、尿道を囲んでいます。肥大した前立腺が尿道を圧迫することで、排尿に関する様々な症状(下部尿路症状)を引き起こします。病態生理としては、男性ホルモン(特にジヒドロテストステロン)の関与が指摘されており、加齢とともに前立腺組織の細胞が増殖し、前立腺全体が大きくなります。原因は明確には解明されていませんが、加齢、男性ホルモンの影響、遺伝的要因、生活習慣などが複合的に関与すると考えられています。主な症状は、頻尿(特に夜間頻尿)、尿意切迫感、排尿困難(尿の勢いが弱い、排尿に時間がかかる)、残尿感、尿失禁などです。重症化すると、尿閉(全く尿が出なくなる状態)、膀胱結石、膀胱憩室、腎機能障害(水腎症)などを引き起こすこともあります。検査には、問診、直腸診(DRE)、尿検査、血液検査(PSA値測定)、超音波検査(経腹的、経直腸的)、尿流量測定、残尿測定などがあります。PSA値は前立腺癌のスクリーニングにも用いられるため、鑑別が重要です。治療は、症状の程度や患者さんの状態によって異なります。軽症の場合は、生活習慣の改善(飲酒・カフェイン摂取の制限、排尿習慣の見直し)や薬物療法(α1遮断薬、5α還元酵素阻害薬など)が中心となります。薬物療法で効果が得られない場合や、症状が重い場合、合併症がある場合には、手術療法(経尿道的前立腺切除術: TUR-Pが一般的)が検討されます。
看護のポイント
前立腺肥大症の看護では、患者さんの排尿状況の把握と症状緩和、合併症の予防、そして疾患や治療に関する正確な情報提供が重要です。まず、排尿日誌の記録を促し、頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、排尿困難、残尿感などの症状の程度やパターンを詳細に把握します。水分摂取量や時間帯、飲酒・カフェイン摂取の有無も確認し、生活習慣の改善指導に繋げます。排尿困難や残尿感がある患者さんには、腹圧をかけすぎない排尿方法や、排尿後に少し待ってから再度排尿を試みる二段排尿などの指導を行います。尿失禁がある場合は、適切な尿失禁パッドの使用方法や皮膚トラブル予防のためのスキンケア指導も必要です。夜間頻尿に対しては、就寝前の水分摂取制限や利尿作用のある食品・飲料の摂取を控えるよう指導します。薬物療法を受けている患者さんには、薬剤の作用、副作用(例: α1遮断薬による起立性低血圧)、服用方法を正確に説明し、アドヒアランスの向上に努めます。手術を受ける患者さんに対しては、術前の不安軽減のための情報提供(手術内容、麻酔、術後の経過、合併症など)と、術後の疼痛管理、出血の有無、尿道の状態(カテーテル留置中の管理、抜去後の排尿状況)を注意深く観察します。退院後も、定期的な受診の重要性や、症状悪化時の受診目安を指導し、セルフケア能力の向上を支援します。
アセスメントのポイント
前立腺肥大症のアセスメントでは、排尿に関する主観的・客観的情報を多角的に収集します。フィジカルアセスメントでは、まず問診で国際前立腺症状スコア(IPSS)を用いて自覚症状の重症度を評価します。排尿日誌を記録してもらい、排尿回数、排尿量、夜間頻尿の回数、尿意切迫感の有無と程度、尿失禁の有無と種類を把握します。腹部を触診し、膀胱の膨満の有無や圧痛を確認します。直腸診(DRE)では、前立腺の大きさ、硬さ、表面の性状、圧痛の有無を評価します。検査データでは、尿検査で尿路感染症や血尿の有無を確認します。血液検査では、腎機能を示すクレアチニン、BUN、そして前立腺癌スクリーニングのためのPSA値をチェックします。PSA値が高い場合は、前立腺癌の可能性も考慮し、より詳細な検査が必要となります。超音波検査では、前立腺の大きさ、形状、残尿量、水腎症の有無などを評価します。尿流量測定では、最大尿流量率(Qmax)や平均尿流量率を測定し、尿道の閉塞度を客観的に評価します。残尿測定は、排尿直後の膀胱に残っている尿量を測定し、膀胱の排出機能障害の程度を把握します。これらの情報を総合的に評価し、患者さんの症状の原因や重症度、合併症の有無を特定します。
関連する看護診断
1. 頻回な排尿、尿意切迫感、排尿困難に関連した排尿パターンの障害
2. 尿道の閉塞と残尿感に関連した排尿困難
3. 疾患の症状と治療に関する知識不足に関連した非効果的な自己健康管理
4. 尿失禁、夜間頻尿に関連した睡眠パターンの障害
5. 尿閉、水腎症のリスクに関連した尿路系機能の障害のリスク
看護計画の要約
OP: 排尿日誌による排尿パターン(頻度、量、夜間頻尿、尿意切迫感、残尿感)の記録、IPSSスコアの変化、水分摂取量と時間帯の把握、飲酒・カフェイン摂取の有無、膀胱膨満の有無、尿量・性状の観察、腎機能データ(BUN, Cr)の推移、PSA値の確認、薬物療法の副作用(起立性低血圧など)の有無、患者の疾患や治療への理解度をアセスメントします。TP: 排尿日誌の記録方法を指導し、継続を促します。排尿困難がある場合は、腹圧をかけすぎない排尿方法や二段排尿を指導します。夜間頻尿に対しては、就寝前の水分摂取制限や利尿作用のある食品・飲料の摂取制限を指導します。尿失禁がある場合は、適切な尿失禁パッドの選択と使用方法、皮膚トラブル予防のためのスキンケアを指導します。薬物療法中の患者には、薬剤の作用、副作用、正しい服用方法を説明します。手術患者には、術前オリエンテーションによる不安軽減、術後の疼痛管理、カテーテル管理、抜去後の排尿状況の観察と排尿訓練を行います。EP: 疾患の病態、症状、治療(薬物療法、手術療法)の選択肢について説明します。生活習慣の改善(水分摂取の工夫、飲酒・カフェインの制限、規則正しい排尿習慣)の重要性を指導します。薬物療法の継続と副作用への対処法、症状悪化時の受診目安を説明します。退院後のセルフケア方法(排尿日誌の継続、定期受診の重要性)を指導します。